1. 愛知県の「ういろう」
1.1 名古屋(尾張)の「ういろう」
(1)はじめに
名古屋と言えば「ういろう」、「ういろう」といえば名古屋。全国的にみても「ういろう」の本場と認識されていて、「ういろう」は名古屋の代名詞といってもいいでしょう。各地の名産品をあしらったキャラクターグッズも、ご覧の通り。「まりもっこり」は「ういろうもっこり」。「ご当地なめこ」「ご当地キティ」もしかり。
(2)「ういろう」店
名古屋の「ういろう」の歴史を簡単に振り返ってみることにしましょう。
江戸期には既に、尾張藩主に「ういろう」を献上していた餅文総本店、多くの店を暖簾分けした雀踊り總本店が創業しています。
名古屋が「ういろう」の名物として全国的に知られるようになったのは、昭和6年(1931)に、青柳ういろうが名古屋駅構内の売店とプラットホームで「ういろう」の立ち売りを開始し、名古屋名物として注目されるようになったことに始まります。戦後、それまでは竹皮の包装で保存が悪かった(夏1日、冬3日)というマイナス面を、紙にアルミ箔をラミネートしたもので包装したり、さらには合成樹脂のフィルムで密封するこにより克服し、長期保存と量産化に成功したといいます。
現在は、CMでお馴染みの青柳ういろう・大須ういろ。老舗の餅文総本店・雀踊り總本店が有名で、名古屋駅キオスク、高速道路SA、セントレア売店で購入することができますし、地元名古屋での知名度も高いかと思われます。”ういろう研究”を始めた6年前からも、4社の「ういろう」はよく食していました。というか、この4社しか知らなかったというのが正直なところですが・・・。
さて、”ういろう研究”を始めてからのことですが、名古屋市内外で車を走らせていると、目に飛び込ん来るようになったのが、写真のような「ういろう」の幟や看板。国道などのメインストリートよりも、旧道沿いの古い商店街で特に目にしました。
それまで気が付かなかったのですが、「ういろう」取扱店の多いこと! 現在のところ、見つけた「ういろう」取扱い店は、上記の4社を含め、名古屋市内で37軒、名古屋市域を除く尾張地区で15軒(支店を除く)。なんと計52軒の「ういろう」店が尾張地区にひしめいているわけです。長年名古屋に住んでいた私でも、知りませんでした。名古屋の「ういろう」は、名古屋土産として重宝されているだけでなく、各地域でも日常のお菓子として支持されていることがよくわかりました(まあ、名古屋人でも嫌いな人も多くいますが・・・)。
(3)名古屋ういろう評
名古屋の「ういろう」というとどちらかと言うと、あまりよくない評判もちらほらと聞きます。ネットでざっと拾ってみると;
「あれは、無しでしょう」「意味がわからない」
「ありゃ『舌きり雀が盗み食いをした障子の糊』だろ」
「名古屋のういろうはまずい名物の代表格だな」
「名古屋のは・・・パサパサしてるんだよなあ食感が」
散々な言われようですが、52軒近くある尾張の「ういろう」の内、どの「ういろう」に対しての評価かと想像するに、キオスクで見かける大手2社の合成樹脂のフィルムに入れられた種類ではないでしょうか。確かに賞味期限も1か月と長く、お土産としては最適かもしれません。
しかしながら、「ういろう」も生ものですから、作り立ての「生ういろう」の方がおいしいのは、言うまでもないでしょう(すいません、大手メーカーさん)。伝統的な名古屋ういろうは、このような街の和菓子屋さんでこそ継承されているんではないかと思います。
(4)名古屋ういろう
それでは、名古屋の伝統的な「ういろう」を紹介していくことにします。なお、尾張各地の「ういろう」は、名古屋で修業した職人さんが地元で開業した例が多いようですので、ここでは尾張各地の「ういろう」も名古屋ういろうとして考えていくことにします。
名古屋の伝統的な「ういろう」は、次の2種類に大別することができます。
|
A1類 |
B2類 |
画像 |
|
|
形状 |
竿もの[A] |
三角[B] |
主素材 |
米粉 [1] |
小麦粉 [2] |
種類 |
白・黒・抹茶 |
黒 |
名称 |
外良・ういろ |
ういろ |
販売店 |
和菓子屋 |
餅屋 |
平均価格 |
484円(112円/100g) |
94 円(86円/100g) |
内容量 |
270〜470g( 平均411g) |
75〜225g(平均135g) |
糖度 |
44〜52度 |
42〜55度 |
賞味期限 |
2〜18日 |
1〜3日 |
1)竿もの [A1類]
多くの人がイメージする名古屋ういろうは、竿もののA1類ではないかと思います。52軒の「ういろう」店の内、半数強がこの種類。どちらかと言うと、ちょっと上級な和菓子屋さんに多くみられます(庶民的な店もみられますが)。
一般的に、アルミ箔がラミネートされた紙にくるまれて真空パック、そして化粧箱に入れられたり、簡単な包装紙にくるまれています。多くの場合、「ういろう」を切るカッターナイフがついています。
米粉素材で餅のような食感、伸びや固さは様々ですが、粘りが強いのが特徴的。白のほか、黒糖を使用した黒、抹茶の3種類を用意している店が主流。そのほか、副素材としては、「小豆、さくら、柚子、よもぎ、八丁みそ」や、特産品の「銀杏、サボテン」を使用したものもみられます。
長さは7寸(21p)、縦横比は4:5くらいで断面は正方形に近い。最近はハーフサイズ・一口サイズが用意されている店も増えてきました。価格、内容量、糖度は表のよう。最上級品としては、餅文総本店の「極上外良」(1,500円、480円/100g)があります。
賞味期限は凡そ2〜5日。脱酸素剤を入れて真空パックしたものでも18日が最長です。大手2社の合成樹脂のフィルムに入れられた「ういろう」に比べると、いずれも柔らかくて粘り・伸びも強く、何よりも米粉素材の香り・味がすばらしいですね。「名古屋のは・・・パサパサしてるんだよなあ食感が」とおっしゃる方も、是非、これらの生ういろうを食してくださいませ。
2)三角ういろ [B2類]
A1類とともに、地元で根強い支持があるのが、B2類の黒糖三角ういろう。尾張の「ういろう」店の約4割はB2類が主流となっています。A類がどちらかと言うと上級な和菓子屋さんに多いのに対し、こちらは庶民的な餅屋さんに置かれていることが多い印象を受けました。言うなれば、A類が高級品で、A類とB類に位相差がある、とも言えます。
この三角ういろは近畿東海のういろう文化圏に多くみられる種類です。名古屋の三角ういろは、「デカい、安い、モチモチ感がある」という3つの特徴がみられます。西へ行くほど、三角ういろも高級感を増していきますが、これら高級品=竿もの、日常品=三角ういろという棲み分けがなされていることから、お値打ちな三角ういろが現在も支持されているのではないかと想像します。
一番大きな三角ういろは、木曽崎饅頭(廃業)の225g。次が、つかさ屋の175g。他地域には見られないビッグサイズの三角ういろです。
その他、少数派としてA2類(竿もの、小麦粉、白)、B1類(三角、米粉、白・黒・抹茶)、外郎地の上菓子、C類(わらび粉を使用した創作ういろう)などもみられます。
|
|